6つのヒント→脳のしくみに基づき行動を変化させる
本日はATDのブログからBrittAndreatta氏の「脳の仕組みに基づいて、実際に行動を変化させるための6つのヒント」というコラムをご紹介いたします。
少し古い記事ですが、昨今話題に上がっている「脳や認知科学」を取り入れた学習という意味ではまだまだ役立つと思います。
BersinbyDeloitteによる最新のレポートによると、学習・人材開発に対し、かつてないほどの投資が行われているが、学んだスキルの90パーセントが1年以内に失われてしまっているそうです。
学習が「持続可能な真の行動の変化」につながらないのであれば、投資が無駄になります。
学習が能力開発の手段であることを考えれば、従業員の能力開発を望む企業・組織が、学習・人材開発に期待するのは当然と言えます。
しかし問題は、効果が上がるように学習がデザインされていない場合があることです。
「脳の仕組みに基づいて、実際に行動を変化させるための6つのヒント」
Tuesday,September08,2015-byBrittAndreatta
引用:Six Tips for Working With the Brain to Create Real Behavior Change
ここでは、脳が学び、記憶し、習慣を形成する能力を最大化するような学習をデザインするための主要な原則を明らかにします。
私は学習の専門家として、神経科学の研究に深い関心を寄せてきました。そこから学んだことは、トレーニングのデザイン・提供に対する私のアプローチを真に変化させました。このような研究には、私がかなり前に試行錯誤を経て学んだことを確証するようなものも、自分の仕事に対するアプローチを完全に変えさせるようなものもありました。私が考えた6つの原則を以下に紹介します。
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脳の仕組みを利用して、効果的な学習を行うためのコツをわかりやすくまとめたのが、次の6つのヒントです。
- 脳の仕組みを活用する
- 学習には集中が重要である
- 記憶の秘訣は関連付けにある
- 記憶を定着させるために3回想起が必要
- 学習の間に睡眠をはさむ
- 習慣をデザインする
脳と行動の関係や仕組みを活用することで、より高い学習効果が見込めます。効果的な学習には集中力が不可欠であり、内容を関連付けることで、自然と長期記憶ができる脳の使い方が可能です。同時に、3回想記することで、記憶の定着が図れます。
また、学習と睡眠は切っても切れない関係であり、これらを日常的な習慣に落とし込むことで、効率的な学習が実現します。
各ヒントについて、より詳しく見ていきましょう。
UMUの記事『オンライン講義での集中力を高めるには?』では、学びと教育のゲーミフィケーションの開拓者として世界を代表するKarl Kapp氏の記事を紹介。オンライン講義で受講者の集中力を高める方法について紹介しているので、ぜひ合わせてご覧ください。
ヒント1:脳の仕組みを活用する
人が情報を取り入れ、記憶に保存し、学んだことを使って永続的な真の行動の変化を起こす上で、脳のさまざまな部分が重要な役割を果たしています。脳の仕組みとプロセスが使われなければ、どんな評判のいい学習プログラムでも長期的に結果を残すことは難しいでしょう。
これからの能力開発の専門家には、脳科学の動向への精通が確実に必要とされます。脳や神経機能の仕組みに関する研究の進歩によってのみ、真の意味での学習関連の製品やサービスの向上が可能です。
学習に関与する脳の部分には、海馬、扁桃体、大脳基底核などがあります。最良の学習体験をデザインするには、学習の神経科学を理解し、尊重する必要があります。
ヒント2:学習には、まず集中が重要である
スムーズな学習のためには集中することが重要です。集中力を発揮するために、学習と記憶に深く関係している脳の一部「海馬」について解説します。
学習と記憶と司る「海馬」とは
海馬とは、情報を取り入れ、記憶に移動させる脳の部分です。この部分が損傷すると、過去の記憶にアクセスすることや、新たに記憶することができなくなります。
海馬は、記憶装置やデータドライブのようにONボタンがあります。生理学的にいうと、人が目や耳を使って何かに注意を向けると、海馬が記録を始めます。UniversityofWisconsinのRichardDavidsonはこれを「位相ロッキング」と呼び、すべての学習の開始点です。
海馬の特徴と能力の限界
学習の専門家は、集中力を促進する学習環境を考える必要があります。学習しながらマルチタスクができるという誤った考えは払拭しなければなりません。
とある研究によると、人の注意力が分散すると、それぞれのアクティビティの間で焦点が交互に切り替わるスイッチタスキングが発生します。脳の海馬は、注意を向けている両方の対象に関する重要な情報を失います。結果、海馬が捉えようとする学習データが欠落し、取り戻すことすらできなくなるのです。
海馬のデメリットは、短期記憶として送り込める情報量には限界があることです。ある研究では、最大量は約20分相当の情報だといわれています。海馬は、数分間でデータを短期記憶に送り込み、終わると同様の処理を続けて行う準備を行います。
海馬を効果的に活用する対策法
以上の背景を考慮すると、講義形式のセッションは脳の自然な学習メカニズムに反しており、記憶の保持に効果的ではないといえます。ただ、他の方法でこの点を補うことが可能です。
私は現在、自分が提供するすべての学習アクティビティを、15分ごとに区切っています。その後に、ペアで行うディスカッションや振り返り、体験や休憩など、情報を処理するアクティビティを設けます。すると、小さなセクションを1つの長いセッションとしてまとめることが可能です。
私の場合、自分が脳に関して学んだことに基づいて、半日より長いセッションは提供していません。このアプローチを採用して以来、生徒の理解度や記憶の保持力、最終的な行動の変化などにおいて、学習効果が実際に向上していることを確認しています。
これまでにも様々な議論が交わされているテレワークと生産性の関係について。UMUの記事『テレワークで生産性が下がる会社とその解決策』でテレワーク下において企業がいかに生産性を保ち前進し続けることができるのかをテーマにしているので、ぜひ合わせてご覧ください。
ヒント3:記憶の秘訣は関連付けにある
学習を開始すると、海馬はまず学習内容を短期記憶に移動し、最終的に長期記憶に保存します。この自然なプロセスを活用する上で、脳についての知識が役立ちます。
ある研究では、人がすでに知っていることと新しく学ぶ内容を関連付けたとき、保持して思い出す確率が最も高まるとされています。関連付けられた知識はスキーマとして脳に保存されます。スキーマは経験を通じ、時間をかけて構築されます。例えば、バナナのことを思い浮かべると、色や形、味、匂い、自分が好きかどうかなどを即座に思い出せることと同じです。
記憶の関連付けと脳のスキーマ
スキーマは神経ネットワークで、追加されながら強く、大きくなっていきます。私がベネズエラへの旅行経験があり、私のバナナに関するスキーマには、普通よりも小さくて甘いバナナや、焼きバナナなども含まれます。
能力開発の専門家は、脳にすでに存在するスキーマに新しい学習内容を関連付けることで、このプロセスを利用できるとしています。実際、優秀な講師は無意識的にこの仕組みを取り入れています。微分・積分、ソフトウェア、リーダーシップなど教える内容にかかわらず、既存スキーマに関連付けるよう、抽象的な概念を具体的に説明しています。
私は、研究を主とする大学の学部長を務めた際、関連付けこそ優秀なインストラクターと他を区別するポイントだと気付きました。優秀なインストラクターは、若者の既存スキーマへの関連付けを行うスキルに長けており、複雑なことを分かりやすく簡単に説明できるのです。
スキーマ活性化に効果的な2つの方法
では、自分が教える生徒のスキーマを活性化するには、どうすればいいでしょう?まず、学習者の物の見方を考えます。学習者についてよく知ることで、何に取り組めばいいのかがわかります。
専門家の多くは、ベビーブーマーには理解された例が、ミレニアル世代には通用しなかったという、世代の違いに関する経験をしているはずです。どのような学習デザインやファシリテーションも、まず「教室にいるのがどのような人で、すでに知っていることに対して意味のある関連付けを行うにはどうしたらいいか」を考えることから始めましょう。
もう1つは、ひとつではなく、いくつかの異なるモデルや例を使うことです。このアプローチを採用すれば、最低でも1つは当たる可能性が高く、より多くの人のスキーマを活性化できます。また、このアプローチには異なるモデル同士を関連付けるという利点もあります。
チェンジマネジメントを使った例
たとえば、チェンジマネジメント(マネジメント手法のひとつ)を教える際は、組織開発のモデル、人間が変化に対して心理的にどう反応するかの研究結果(チェンジカーブと呼ばれるもの)、そして脆弱性に関するBrenéBrownの業績を使っています。
これらのモデルを合わせて使うことで、変化が避けられないことであり、変化は難しいという「理由」とその「程度」を示すことが可能です。また、変化に伴う錯綜した状況の提示や、変化を適切にナビゲートする方法の洞察にもつながります。
実際に私は受講者に、これまでに経験した変化を2つ思い出してもらいます。うまくいった変化を1つ、もう1つは困難だった変化です。それぞれの記憶だけでなく、変化についての個人のスキーマが活性化されます。変化を効果的にリードする実地演習を組み合わせることで、非常に強力かつ永続性のある結果を得られるでしょう。
ヒント4:記憶を定着させるには3回の想起が必要
脳科学から得られた最大の洞察の1つは、人の記憶が形成される方法に関連するものです。概念の学習に関して、想起(学んだ内容を思い出すこと)を通じて学習が長期的に記憶されることが明らかにされています。
たとえば、私は皆さんに神経科学について教えています(読むことは、学ぶ方法の1つ)。私が皆さんのスキーマを活性化することで、皆さんが「ahamoment(突然のひらめきや納得)」を体験するかもしれません。しかし、学んだことを後で想起しなければ、結局は学習内容が脳から追い出されてしまうでしょう。
想起の方法は多数あり、学習内容を他人と共有する、過去の経験とどう関連するか考える、実際にやってみる、自分に質問して理解度を試すなどです。
学習効果を得るためには最低3回の「想起」が必要
インストラクショナルデザイナーが学習イベントに想起を組み込むことで、学習者が自力でできるようになるサポートが可能です。
優れたプレゼンターは、聴衆のスキーマを活性化させ、完全に楽しめる心地よい体験を作り出します。このようなプレゼンターやプログラムは高く評価されますが、想起がなければ、数週間後に学習内容は消えてなくなるでしょう。それでもプレゼンテーションが素晴らしかったと言えるかもしれませんが、結果として行動を変えることはできません。
記憶に関する研究では、効果を得るためには、最低でも3回の想起が必要だとしています。3回の想起が、記憶の正確度と保持のために最適であるとも示しています。私は想起に関するこの数字を、自分の学習デザインに取り入れています。1回の学習時間に3回の想起を組み入れ、日をおいて思い出すとより一層強力です。
UMUの記事『「知っている」から「できる」への道のり。情報は活用してこそ意味がある』では、テレワーク時における効果的な情報伝達のいくつかのポイントを紹介しているので、ぜひ合わせてご覧ください。
ヒント5:学習の間に睡眠をはさむ
睡眠中の脳は、長期記憶の形成に大きな役割を果たしていることがわかっています。人の脳では、その日に学んだ情報が睡眠中に短期記憶から長期記憶に移動されます。学習したことを脳が既存のスキーマに加えるのは眠っている間であり、この時間に神経経路が物理的に構築・強化されます。
同じタイミングで軽い掃除も行われます。人は毎日、何千という情報を取り入れますが、どの情報を覚えておくかは、脳が睡眠中に選択しています。すでに長期記憶に入っている項目も再検討され、しばらく活性化されていない情報は削除されます。
アニメーション映画『インサイドヘッド』では、このプロセスが的確に描写されています。Rileyが眠っているときに、その脳の中の小人が、アメリカ大統領の名前の大半を掃除機に吸い込んでしまおうと決める場面です。
学習効果を高める睡眠のコツ
学習イベントの効果を高めるには、睡眠をどのように使ったらいいのか。反転学習やブレンド型学習が効果的です。私は現在、数日前に学習者に事前学習をさせ、教室では実地演習を使って学んだ内容を深めます。また、学習の後には学んだことを振り返る機会を与えています。
例えば、リーダーシップトレーニングを構築する場合、関連するオンラインコースをlynda.comで見ておくよう学習者に周知します。自分の都合に合わせてできる上、教室ではより的を絞った取り組みに時間を使えるからです。
講義では、スキルの実地演習に力を入れます。終わった後には、スキルをさらに高めるために追加の学習教材(TEDのリンク、関連記事、宿題など)を提供します。この混合型アプローチにより、睡眠を間に含んだ3回の想起が可能です。学習行動を習慣づけるためのきっかけでもあります。
ヒント6:習慣をデザインする
多くの学習の目的は、究極的には行動を変化させることです。学習の専門家は生徒が新しい、より適切な行動を身に付けるよう努める必要があります。
CharlesDuhiggの『ThePowerofHabit』は、私の自分の仕事への見方を変えた本です。Duhiggはこの本の中で、大脳基底核がどのように習慣ループを形成するかについて示しています(キューやトリガー、行動ルーチン、ルーチンを繰り返すことの見返りなど)。
時間が経つにつれ、習慣が神経経路に深く刻み込まれ、コンピューターへのログイン方法や、会社への行き方などのように、ほぼ自動的に行われるようになります。
習慣を意識的に変化させる重要性
行動を変化させる場合には、現在の習慣を把握し、新たな望ましい習慣を形成する方法や説得力のある理由を考える必要があります。私は自身を習慣デザイナーであると考えています。私の学習デザインはすべて、形成する習慣を特定することから始まります。
そこから逆算的に構築していきます。想起は学習内容を記憶に移動する鍵となる一方、反復は習慣デザインの鍵です。神経細胞を刺激するほど神経経路は強化され、太くなったことすら測定できるほどになります。
能力開発の専門家の仕事は、人の潜在能力を伸ばすことです。企業・組織全体、およびそこに属するすべての人が、自身では意識していない能力を備えています。学習の専門家は、自分が提供する学習体験を通じて、その潜在能力を伸ばすよう働きかける必要があるのです。脳の自然なプロセスや神経システムを考慮し、自分の仕事と影響力を最大限に高めてください。
学習が「持続可能な真の行動の変化」につながるよう、上記6つのヒントが参考になれば幸いです。是非効果が上がる学習デザインに取り組んでみてください。
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