集合研修と現場の実際をつなぐ学びのコミュニティ「ラーニングサークル」
※本記事は、2023年4月18日の取材に基づき作成されています。
研修での学びが現場での実践に活かされているのか、アステラス製薬株式会社は、現場配属後の新入社員の成長把握に課題を感じていました。そこで、新入社員の教育のためにUMUを導入し、学びのSNS「ラーニングサークル」を活用することで、「新入社員への指導や学びの視覚化」だけでなく「学び合える環境」を構築しました。同社営業本部 コマーシャルエクセレンス部 能力開発グループ 清水熏子さんに、その構築方法や効果についてお話をうかがいました。
企業情報
社名 :アステラス製薬株式会社
本社所在地 :東京都中央区日本橋本町2-5-1
創業年月日 :1923年(大正12年)
ホームページ:https://www.astellas.com/jp/ja/
ラーニングサークルというオプション導入の背景と課題感
―まずは、清水さまのお仕事や役割について教えていただけますか?
営業本部のコマーシャルエクセレンス部能力開発グループに所属して、新人MRの能力向上に携わっています。コマーシャルエクセレンス部は営業活動の高質化と効率化に貢献する部署で、様々な講演会の企画・実施やアナリティクス機能に加え、新人MR研修などの能力開発に関する業務も担当しています。中でも能力開発グループは現場のマネージャーやMR(Medical Representatives:医薬情報担当者)、新人MRの能力開発に注力していているグループで、私は主に新人MRの研修を担当しています。
―UMUの学びのオンラインコミュニティ「ラーニングサークル」を導入していますが、導入背景や導入前の課題はどのようなものでしたか?
集合研修での学びと実務を通じた学びを連動させることが理想であると考えていますが、そもそもラーニングサークル導入以前は、「新人MRに対する現場での指導や学びが見えない」ことに課題感がありました。
新人MRは半年間の集合研修の後に全国に配属されます。私たちは新人MRの教育においては最初の1年間が重要な期間だと考えていますが、全国配属後の半年間については現場での指導や学びが中心となり、新人MRの現状を把握できなくなっていました。そのため、自発的なかたちで学びや指導を可視化する方法を考えました。
また、現場に出ると新人MRは皆、自分の仕事に集中します。また新人MRの実務指導者である育成担当者や現場のマネージャーも、自身が担当する新人MRを育成することに躍起になります。結果、他の育成担当者やマネージャーと比べて自分自身はどうか、自身が担当する新人MRは他の新人MRと比べてどのような状態なのか、客観的に見えにくくなります。配属先を超えた横のつながりをつくることで、お互いが学び合い、高め合えるようになるのが理想だと考え、ラーニングサークルを導入し、学びのコミュニティを構築することにしました。
新人MR研修の在り方の変化
―ラーニングサークル導入前と現在とでは、新人MR研修に変化を感じますか?
過去の新人MR研修と比較すると、変化は大きいですね。指導に関するフレームや手順書などはなく、現場の指導はブラックボックス化していました。育成計画書の作成や、本社スタッフが同行する指導の機会もありましたが回数は少なく、イベント的だったといえます。教える側も全国に出張する教育スタッフが必要で、担当者の負担が大きかったと思います。
新人MRのつながりに関しても、以前はLINEが主なコミュニケーションツールでしたが、日々のちょっとした連絡が主で仕事の話は発生しにくい状況でした。業務を通じて日々学び、それを深めるためにも、学び合えるコミュニケーションが自然と生まれる環境の必要性を感じていました。
ラーニングサークル導入後には、課題に感じていた「新人MRの学びの把握」や「同期間で学び合える環境」、そして「教える側の工数軽減」までが叶っている状況です。
―他のツールと比較したうえで、UMUに決めた理由をお聞かせいただけますか?
実はラーニングサークル導入時、社内には他のコミュニケーションツールもありました。そのため、ラーニングサークルのメリットがわかるように比較表を作成してプレゼンを行いました。主な比較項目は、ユーザー層・ユーザーの目的・よく使われる言語・コミュニケーションのフォーマルさ・学習へのフォーカス・検証のしやすさなどです。
理想は、新人MR同士が横のつながりで学びを意識し、高め合う環境づくりです。比較の結果として、既存のツールでは「新人MR同士が学び合えるコミュニケーションを生み出す」という目的が達成しにくく、UMUのラーニングサークルでは、新人MR同士が横のつながりをつくり、学びへのモチベーションを高め合える可能性が高いと捉えました。
具体的には、ユーザー層が絞られており、投稿目的を「日々の気づき・学びの投稿」とすることで、学習にフォーカスしやすいコミュニケーションの環境をつくれると考えました。
また、研修担当側からすると、検証のしやすさというのも大きかったです。他のコミュニケーションツールは、コミュニケーションがどのくらい活発に起こっているのか量的に把握することは難しいと思いますが、ラーニングサークルの場合ポイントというかたちで可視化され、またそれがエクセルで手に取ることができます。ラーニングサークルでのコミュニケーションの活性度が、他の研修指標等との関連でどんな意味を持つのか検証しやすかったです。
ラーニングサークルの活用方法
―具体的なUMUの活用方法はどのようなものでしたか?
まず、ラーニングサークルを含むUMUの位置づけを「新人MRを対象にした、学びとコミュニケーションの場」としました。投稿メンバーの中心は、新人MR・現場の育成担当者と私たち研修担当側です。新人MRの日々の活動報告とそれに対する現場の育成担当者のフィードバックが主な投稿でした。上期は3期に分けてトライアル、 下期は実践期間としての活用です。
トライアル期間の上期は毎日投稿
―トライアル期間の上期はどのように活用されていましたか?
上期は3期に分けての活用でした。集合研修での学びを現場で確認・実践する、実地研修を3回予定していたため、その3回に合わせてトライアルを実施しました。
1期目は「新人MRの反応を確認する」フェーズ、2期目は「現場社員の反応を確認する」フェーズ、そして3期目は「多様な活用法を模索する」フェーズです。
―それぞれの詳細を説明いただけますか?
まず、1期目の「新人MRの反応を確認する」フェーズでは、新人MRだけで運営してもらいました。まずは、具体的な経験・内省的な観察・抽象的な概念化・積極的な実践を繰り返していくことで学びを深める、経験学習サイクルについての説明をしました。そのうえで、現場で経験したことを具体的に共有する場として活用してもらいました。実地研修をした後に成果発表をする流れをつくり、発表があることで内省と概念化を促すのが狙いです。
2期目は、「現場社員の反応を確認する」です。育成担当者に意義の説明を行い、現場の社員も巻き込んで実施しました。新人MRの仮配属先のグループごとにサークルを作成し、新人MRの毎日の投稿に対し、新人と同行したMRや育成担当者にフィードバックを記載してもらうように促しました。
3期目は、「多様な活用法を模索する」フェーズです。実は、2期目は他のサークルの投稿内容の閲覧は可能ですが、コメント・いいねなどのリアクションは不可としていました。ただ、3期目はそれを可とし、どのような反応が起こるのかを観察しました。またラーニングサークルとコースとの連携にもチャレンジしました。
具体的には、「育成担当者の担当エリアを分析し戦略を考えて発表、育成担当者からフィードバックをもらう」という課題を新人に出しました。その課題の資料やフィードバック用のアンケートは、コースに投稿してもらいました。そのうえで、そのコースのURLをラーニングサークル上に投稿してもらい、育成担当者以外からのフィードバックを促しました。
トライアル期間を通じて、主に3つの点が明らかになったと思っています。
1つめは、新人MRも育成担当者をはじめとする現場社員も、概ねこちらの意図した通りにラーニングサークルを使うことができるということです。
2つめは、意図通り使ってもらうためにも事前に現場へのラーニングサークルの使い方に関するコミュニケーションを入念に実施することが重要であることです。
3つめは、サークル間の行き来や他のサークルへのリアクションは、新人では活発に起こっていましたが、育成担当者をはじめとする現場社員では限定的だということです。サークルの大きさや構成をどうするのか考え方は色々あると思いますが、それぞれの仮配属先のグループを1つのサークルとすることは適切であったと考えています。
―現場社員は導入に協力的でしたか?
現場の育成担当者には、温度差はあれど協力してもらうことができました。実は第1期のトライアル中は、新人MRはラーニングサークルを使っていましたが、育成担当者をはじめとする現場社員から新人MRへのフィードバックはエクセルをメールで回して実施していました。
ラーニングサークルのトライアル中に、育成担当者複数名に意見を聴取しましたが、どの社員からも、エクセルと違ってリアルタイムにコメントできることが楽であるということでした。ラーニングサークルの導入後はプラットフォーム上で情報の一元管理ができるようになり、エクセルのやり取りや管理に関わる工数が減少しました。このように現場の育成担当者の負担が軽減することもあり、ラーニングサークル導入に協力してもらいやすかったと感じています。
実施期間の下期で学びの循環が生まれる
―実践段階の下期ではどのように活用されていましたか?
上期は毎日行うように指示していた投稿の頻度を、下期には週1回に減らしました。投稿内容は、今週1週間の振り返りと翌週の優先事項です。育成担当者によるフィードバックや、先輩MRから新人MRへのアドバイスは継続して行いました。
実施当初は「最低限週1回の投稿」を行うように促していましたが、上期のように毎日の投稿を継続する人や、何かイベントがある度に投稿する人など、それぞれに工夫が見られました。以前にも増して、その日の学びを言語化することが定着している印象です。
また、配属先のグループサークルの他に、新人MRが自由に運営するサークル「みんサー(みんなのサークル)」を動かし始めました。みんサーはあくまでも新人MR自ら主体的に投稿をする場所です。内容としては、学術的な方面に強い人は業界のニュース情報をシェアしたり、読書好きな人はオススメの本の紹介をしたりとそれぞれの個性が出るものでした。医師向けに説明会を開催するときの具体的なアドバイスを求めるものなど、日々の仕事に直結するものもありました。
自然と起こった「学びの循環」は、ラーニングサークルの導入目的だったので嬉しかったですね。加えて、研修担当側からは、上期集合研修の内容のリマインドや、MR用の定期テストの案内を呼びかける投稿をすることもありました。
社内ではUMUのシステム自体が、社内の教育ツールであるALC(アステラスラーニングチャネル)と認識されています。そのALCの中にラーニングサークルがあるため、新人MRからは、ラーニングサークル=学びを投稿するコミュニティと自然に理解されていました。事実、ラーニングサークルのことをALCと呼んでいる新人MRもいました。
―自発的なやりとりが活発になった理由は何だと思いますか?
上期に、トライアルを実施したことは大きかったと思います。その中で、お互いの投稿を見合って「いいね」や、コメント等のリアクションをし合うという経験があったからこそ、下期にも新人MR同士リアクションし合う流れが自然に発生していったのだと思います。
また、新人MRが自由に運営するサークル「みんサー」が活性化した理由については、新人MRたちの間で「これだけは投稿しよう」という投稿のルール決めがあったことが影響していると思います。
具体的には、9月のMR認定試験の模試の結果が出たときに、下期に予定している模試の目標をみんなでラーニングサークルに投稿しようということに決まりました。また週に1回はMR認定試験学習に関する勉強の進捗を投稿することも決まりました。新人MRの中での、みんサーへの投稿に濃淡はありましたが、これら新人MR同士で決めた内容については全員が継続して投稿していました。このように、ラーニングサークルをどのように活用するのかを新人MR自ら考え、ルールを作ったことが良かったのかもしれません。
ラーニングサークル導入後の効果と感想
―ラーニングサークルを導入してから、どのような成果を実感していますか?
ラーニングサークルでのコミュニケーションの活性度と、新人MRのエンゲージメントや各種研修指標を調べたところ、関連がありそうな結果でした。
米ギャラップ社のエンゲージメントサーベイを参考に、新入社員のエンゲージメントスコアを取りました。その結果と、ラーニングサークルの活性度(ポイント数)に相関性があるかどうかを調べたところ、エンゲージメントサーベイに於ける周囲から成長の支援がされているかどうかに関する質問項目の値と、ラーニングサークルでのコミュニケーションの活性度の相関が示唆されるデータになりました。本社から直接現場を見に行くことは難しいですが、ラーニングサークルでのコミュニケーションの活性度を見ることで、新人MRの置かれた環境、またそれに対して新人MRが感じていることを把握できるのではないかと考えています。
また、新入社員が受けている定期テストの点数にも、ラーニングサークルの活性度との相関性が見えました。このように、そもそもラーニングサークルでのコミュニケーションの活性度をポイント数という形で把握できること、またラーニングサークルでのコミュニケーションが活性化しているほど、新人MRの育成にもポジティブに働いている可能性があるということが把握できたことは有意義であったと感じています。
下期に新人MRに対し匿名でアンケートを行ったところ、「ラーニングサークルがあって良かった」という声がほとんどでした。配属先のサークルに関しても、みんサーに関しても同様です。
また面白かったのは、先輩方からアドバイスをもらえることよりも、同期の投稿内容を確認できることで自身の活動の参考になること、加えて同期の投稿内容を確認して個別に連絡し合うといった新たな学び合いにつながることに対してよりメリットを感じているということです。
また、研修中に提示する課題内容の負担感や、必須投稿と自由投稿のバランスが大切だということもアンケートの声に表れていました。
先ほど、上期のトライアル中にラーニングサークルとコースとの連携を実施したと述べました。実は、下期も同様に定期的にコースに課題を投稿してもらい、ラーニングサークルにフィードバックの依頼をするということを実施してもらったのですが、うまく回りませんでした。コースとの連携自体が良くなかったというよりは、配属後半年間の忙しい中で、課題の負担感が大きすぎたのではないかと考えています。
ラーニングサークルへの投稿は、テキストベースか画像ベースで対応できるくらいの負担感が適切ではないかと感じています。必須投稿と自由投稿のバランスについても同様のことがいえるかと思いますが、必須がないとコミュニケーションとして何も起こらない可能性が否めません。ただ、必須が多すぎるのも、新人MR・現場社員側の負担感に繋がってしまうので、なるべく必須は少なくしながら意義あるコミュニケーションが発生するバランスが大事だと思います。
今後のラーニングサークルの活用に向けて
―今後のラーニングサークル活用法について教えてください。
フォーマルな学習と現場での実践的な学習がつなげられることが理想です。今は単純に、現場でやったことを互いに共有したり、内容をリマインドしたりするような活用がメインですが、現場で実践していることと、研修で学ぶことがもっとつながる場にしていきたいですね。そのためにも、私たち研修担当側のファシリテーションの仕方も工夫していきたいです。
また、ラーニングサークルでのコミュニケーションについて量的な検証だけでなく内容まで検証すること、ラーニングサークル上でのコミュニケーション自体になんらかのKPIを設定すべきか検討すること、加えて育成担当者間での学び合いの促進についても今後工夫していきたいです。
ゴールは、上期で学んだことを下期で活かしている、実感のこもったアウトプットです。例えば「研修で学んだ問題解決のフレームワークを活かして、医師の感じている課題を分解してみました」など、研修での学びと業務での経験をかけ合わせたアウトプットが出てくるような場をつくっていきたいと考えています。
大手企業様をはじめとして、全社学習プラットフォームの活用、営業教育、新入社員教育等、様々なシーンでUMUをご利用いただいております。
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