好奇心を高め、学習の定着を促す「ドリップフィードラーニング(Drip-Feed learning)」とは?
UMUはこれまで、効果的な学習を実現する手法として、マイクロラーニング・ブレンディッドラーニングなどについてご紹介してきました。学習の効果を最大化する新たな方法として、「ドリップフィードラーニング(Drip-Feed learning)」があります。
2023年に開催されたATD23-ICEでLearning Rebels代表のシャノン・ティプトン氏(Shannon Tipton)によって詳しく紹介されたこの方法は、学習者の好奇心を高め、学習の定着を促すのに大変役立つものです。本記事では、25年以上に渡って人材開発業界の第一線で活躍しているシャノン・ティプトン氏(Shannon Tipton)による「ドリップフィードラーニング(Drip-Feed learning)」に関する情報をご紹介します。
ドリップフィードラーニング(Drip-Feed learning)とは?
シャノン・ティプトン氏はドリップフィードラーニングを以下のように定義しています。
「間隔を開けたラーニングをサポートするためのチャンク化されたコンテンツの定期的な配信」
(scheduled delivery of chunked content to support spaced learning)
ドリップフィードラーニングは、人々のエンゲージメントを高め、ラーニングジャーニーの中で次は何が起きるのかという好奇心を高めるためのパワフルな戦略です。情報は短い時間に分割され、間隔を開けて繰り返すことでより簡単に吸収することができるからです。
学生時代に試験のために大量の情報を頭に押し込んで、試験が終わるとすっかり頭から抜けてしまう、という体験をしたことがある方も多いのではないでしょうか?社会人になってからも、大量の情報を定期的に学習するという課題は変わりません。例えばセールススクリプトを吸収し、業務に必要なルールやポリシーを暗記し、新しいソフトウェアを学習する必要があります。暗記による学習は退屈で非効率ですが、多くの企業内学習においてはいまだに、教室や e ラーニング モジュールを通じた強制的な情報配布によって「一度だけ」のアプローチを行っています。
神経科学の研究によると、特に新人や研修中の従業員にとって、大量の情報を把握したり頭の中で保持したりするというのは負荷が高すぎる可能性があると言われています。これは認知的過負荷として知られる現象で、学習を効果的にするためにはこれを避ける必要があります。
そこでドリップフィードラーニングを使用すると、トレーニングや情報を小さくわかりやすいものとして従業員に提供できるようになるのです。ドリップフィードラーニングでは、一度に配信する情報のサイズを小さくするだけでなく、コンテンツを配信する間隔をあけること・コンテンツの配信を段階的にスケジュールすることが重要です。学習プログラムをセグメント化して、適切なタイミングで適切な人に学習プログラムを届けられるようにコンテンツの配信を自動化し、業務の効率化を行うこともできます。
「ドリップフィードラーニングで間隔をあけた学習を提供することは、ストーリーを語ることに似ている」とシャノン・ティプトン氏は言います。優れたストーリーテラーは期待を高め、勢いをつけ、興味を引くことから始めます。ストーリーが効果的であればあるほど、人々はそのラーニングジャーニーに夢中になるでしょう。
ドリップフィードラーニング(Drip-Feed learning)のメリット
ドリップフィードラーニングのメリットとしてシャノン・ティプトン氏は次の5つを挙げています。
1.ペースを作ることができる
コンテンツ配信を自動化することによってペースを制御でき、学習者が予定通り進める。
2.脳の疲労防止
認知的過負荷を防ぎ、効率的で質の高い情報処理につながる。
3.ブレンディッド
学習の効果を最大化し、学習者の理解と定着を強化するために、異なる要素や手法を統合的に組み合わせることができる。
4.エンゲージメントを高めることができる
学習者がラーニングジャーニーを続けることができるようになる。
5.アジャイル
柔軟性と敏速性と共にラーニングを進めることができる。
ドリップフィードラーニング(Drip-Feed learning)コンテンツを計画する5つのステップ
以下の5つのステップでドリップフィードラーニングを計画することを、シャノン・ティプトン氏は推奨しています。
ステップ1: 答える必要がある質問は何か?を検討
深く強い質問を検討します。学習者のニーズに沿った大きな問いです。
【例】なぜ新人セールスにとって価格交渉は困難なのか。
ステップ2: ターゲットスキルを検討
開発したいスキルを1つ選び、集中すべきです。
【例】セールスにおける交渉スキル
ステップ3: 特にフォーカスする参加者を検討
問い・課題に関連する参加者を選びます。
【例】経験期間12ヶ月未満の参加者
ステップ4: 「人間中心の」成果を設定(ステップ1に合わせて調整)
参加者自身や実際の職場でどのような成果が出ることを期待するかを設定します。
4.1: スキル コミュニケーションー顧客のニーズとプロダクトを結びつける
【例】顧客の痛み・悩みのポイントを見つけ、ニーズを満たす質の高いセールスを行うコミュニケーションスキル
4.2: スキル 製品知識ー製品に関する知識に自信を持つ
【例】製品の価値を定量化して顧客がより迅速な意思決定を行えるようにサポートし、営業プロセスの短縮を実現するための製品知識
4.3: スキル 関係構築ー顧客との関係構築・関係強化
【例】信頼関係を構築し、アップセルやクロスセルの機会が生まれるような顧客との関係構築スキル。感情的な知性。
ステップ5: 学習の成果をもたらすリソースの選定
ステップ4までを検討した後に、リソースの選定を行います。ポッドキャスト・リサーチ記事・インフォグラフィック・ブログ・動画・書籍など、様々なリソースを集め始めましょう。その際に、ステップ4で設定した成果を出すために何が必要かという視点で考えましょう。
【例】4.1 顧客ニーズとプロダクトを結びつけるコミュニケーションスキルを向上させるためには下記のようなリソースが考えられる。
・顧客の痛みポイントの4タイプに関する動画
・痛みポイントのタイプごとのスクリプト
・顧客と価格に関するPodcastの1エピソード
ステップ1-ステップ5を検討した後、どのようなソーシャルな要素(SNSや各種システム)を組み込むか、ドリップフィードラーニングを提供するためにどのツールを使うかを選択し、定期的なスケジュールを組みます。
ドリップフィードラーニング(Drip-Feed learning)のためのツールとノウハウ
メール・ブログ・チャットボットなどをツールとして使用してドリップフィードラーニングを実施することができます。
■メール:
学習者の受信箱に直接メールレッスンを配信するようにスケジュールを設定し、自動化します。
■ブログ投稿:
多くのラーニングテクノロジーや学習管理システム(LMS)には、ブログ投稿を公開する機能がついた企業向けソーシャル ネットワークが含まれています。ただし、ブログ記事を書くのではなく、教訓を書きましょう。そして学習者への通知をスケジュールします。
■チャットボット:
チャットボットを使用してマイクロラーニングを提供することもできます。テキストメッセージ上でレッスンにリンクしたテキストを送信したり、ビデオやグラフィックを添付したメッセージを通じてレッスン自体を配信したりできます。
その他、学習に使用するリソースや質問できるコーナーがあるモバイルアプリや、ARなどもドリップフィードラーニングに使うことができます。
ドリップフィードラーニング(Drip-Feed learning)を行う際の注意点
ドリップフィードラーニングをより効果的に行うために、以下のことに注意しましょう。
①コンセプトを明確にする
②コンテクストを明確にする
③目標に結びつくようにする
④目的に沿ったアクティビティを設定する
⑤ツールについてよく知っておく
⑥参加者についてよく知っておく
上記に気をつけて職場学習にドリップフィードラーニングを取り入れ、学習効果を高めていきましょう。
シャノン・ティプトン氏インタビュー動画
2023年、アメリカ・サンディエゴにて開催された世界最高峰の人材育成の国際カンファレンス「ATD International Conference & Expositionにて、UMUはシャノン・ティプトン氏にインタビューを行いました。
ドリップ、ボット、そしてブログ: 強化学習のための非伝統的なアプローチ〈ATD23-ICE登壇者インタビュー〉
その他にもATD23-ICEにて登壇者へのインタビューを実施しています。
以下より一覧をご覧いただけますので、是非今後の皆様の学習にお役立てくださいませ。
https://umujapan.co.jp/column/atd23-ice-session-summary/
参考情報
■「ドリップフィードを使ってスペースドラーニングを新たな高みに導く」(Use Drip Feeds to Take Spaced Learning To New Heights)
■「トレーニングにおける認知的過負荷の重要性」(What a load of…cognition! The crucial importance of cognitive load in training)
■「デジタルの友達:企業内トレーニングでのチャットボット利用」(Our ”Digital Friends” Using Chatbots in Corporate Training)
■Shannon Tiptonが代表を務めるLearning Rebels
https://www.learningrebels.com/
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