新人の定着率を向上させる打ち手は何か?トランスコスモスDCC統括部門の答えは「トレーナーの役割進化」にあった
コンタクトセンター業界のリーディングカンパニーであるトランスコスモス株式会社。同社の主力事業を担うデジタルカスタマーコミュニケーション(DCC)統括部門では、事業インパクト創出に向けた重要な経営課題として、新人コミュニケータの定着率向上という課題がありました。この高い目標達成の鍵として着目したのが、全国約800拠点で展開される「研修スタイルのアップデート」です。業界の常識を塗り替える、同社の挑戦を追います。
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会社概要
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- 社名:トランスコスモス株式会社
- 本社所在地: 〒170-6016 東京都豊島区東池袋3-1-1 サンシャイン60
- 設立年月日:1985年6月18日
- 資本金:290億6,596万円
- ホームページ: https://www.trans-cosmos.co.jp/
事業インパクト創出に向けた挑戦、その背景にある構造的な課題
―まず、今回の「研修スタイルのアップデート」という取り組みが始まった背景についてお聞かせください。新人コミュニケータの定着率向上が、重要な経営課題となっていたのでしょうか。
「コンタクトセンター業界全体の構造的な課題として、人材の確保と定着が挙げられます。かつて、当業界は時給が高い職種として知られていましたが、近年は飲食業や物流業など他職種の時給も上昇し、採用市場における優位性が薄れてきました」と組織開発部に所属する岩本さんは語ります。
同社では、年間で数千人規模のコミュニケータ※を採用しており、その採用・教育コストは事業運営における重要な指標です。特に、早期の退職は大きなインパクトを与えるため、新人コミュニケータの定着率向上は、事業部全体の継続的な課題でした。
「定着率が伸び悩む要因の一つとして、新人研修のあり方が挙げられます。長年行われてきたインプット重視の詰め込み型の研修スタイルでは、複雑化する業務に必要なスキルを学習者が消化しきれず、自信を持って現場で成果を発揮するのが難しい状況がありました。これが、早期の離職につながる一因ではないかというという仮説があったのです。」
※【用語解説:「コミュニケータ」】
トランスコスモス株式会社では、従来「オペレーター」と呼ばれる職種を「コミュニケータ」と呼称しています。これは、同社が目指す「お客様との対話を通じて本質的な課題解決に導く、高度なコミュニケーションを担う専門人材」という思想を反映したものです。本記事でも、その思想に基づき「コミュニケータ」という表記に統一させていただきます。
複雑化する業務と、変化するコミュニケータの役割
―目標を達成するにあたり、従来の研修スタイルの具体的な課題となっていたことは何でしたか。それが「コミュニケータの定着率」という指標にどう影響していると分析されましたか。
「近年、コミュニケータが対応する業務の難易度は格段に上がっています。お客様自身がインターネットやAIを駆使して情報を収集した上でコンタクトされるため、単なる情報提供だけでは価値を提供することが難しくなってきました」
求められるのは、お客様の話を深く傾聴し、お客様の真意を捉え、背景にある課題を共に考え、そのお客様にとって最適な解決策を提案するような高度なコミュニケーション能力です。複雑化するシステムを操作しながら、お客様の心に寄り添う対応をする必要があります。
「このような高度なスキルが求められる中で、一方的に知識を詰め込むだけの研修では、学習者が自信を持って現場に出ることができません。結果として、業務への不安から早期退職につながるケースが少なくないと考えています。そこで、2023年からコミュニケータを育成する立場であるトレーナー向けの研修を本格的に開始し、研修のあり方そのものを見直すことにしました」
インプット重視の研修のあり方をアップデートしていくためのトレーナー向け研修企画にあたり、現場のトレーナーが日々直面している課題のヒアリングを行いました。実際に挙がった声には、以下のようなものが含まれていました。
- トレーナーの悩み
「決められた期間で膨大な量の情報を覚えてもらわなければならない」
「研修を実施することに精いっぱいで個々のコミュニケータに対するフォローが行き届かない」
「業務立ち上げ時に作成された研修カリキュラムやコンテンツをどうアップデートしたら良いかわからない」
このように、多くのトレーナーが教えることの難しさや高度化する業務への対応に葛藤を抱えており、研修スタイルのアップデートが急務となっていたのです。
「新たな武器を増やす」- 尊重から始まるトレーナーの役割変革
―このビジネス課題に対し、トップダウンの改革ではなく、現場のトレーナーの方々を巻き込むアプローチを選んだ理由について教えてください。
「本質的な成果と変革のスピードを考えたとき、トップダウンでやり方を押し付けるだけでは、トレーナーの方たちに『やらされ感』が生まれてしまい、主体的な行動にはつながりません。本当に納得し、自らの意思で研修スタイルを変えていきたいと思ってもらうことが重要でした。
そのため、トレーナーを対象とした研修は『アウトプット率70%以上』の体験型で研修転移を促進しました。“トレーナーが教える研修”から“受講者が自ら学ぶ”研修へ進化させる重要性を感じてもらうことを重要視しました。
その結果、研修を受講したトレーナーから『アウトプット率を高めることの効果が分かった』などの声が多く上がり、詰め込み型研修からの脱却を主体的に実現することに成功しました」
成果の可視化と、組織全体の競争力向上へ
―今回の取り組みを、DCC部門、ひいてはトランスコスモス全体の競争力向上にどうつなげていきたいですか。
同部門では、トレーナー向け研修の3カ月後に、受講者本人とその上長に成果アンケートを実施し、効果を測定しています。
「特に新人コミュニケータの定着率が高い事業所には直接ヒアリングを行い、成功事例を分析しています。そこで得られたノウハウを、成果が伸び悩んでいる拠点に展開することで、組織全体の育成レベルの底上げを図っています」
研修スタイルのアップデートは、コミュニケータの定着率を改善し、採用コストの削減という事業目標達成に貢献するだけではありません。高度化する顧客ニーズに応えられる人材を育成し続けることは、業界No.1企業としての競争力を維持・強化していく上で不可欠です。
「明日から使える」体験を通じて促す、自発的な気づき
―トレーナーの皆様を支援する「新たな武器を増やす」というコンセプトを、具体的にどのように形にしていったのでしょうか。
同部門では、全国にいるトレーナーを育成・支援する「エリアトレーナー」の育成にも注力しています。育成企画を担う岩本さんや柏原さんと、現場で研修運営を担うトレーナーの方々が連携し、変革を進めています。
「そこで私たちは、トレーナーのスキル開発と経験獲得を支援するために「新たな武器を増やす」ことをコンセプトにしています。これは、トレーナー各人が持つこれまでの経験や成功体験を土台としながら、AIやデジタルツールといった新しい武器を手に入れてもらうことで、自身の研修をさらに良くする支援がしたい、という想いを込めたものです」
変革の核となったのが、「AI活用力強化ワークショップ」と「ツール利用強化による研修効果改善ワークショップ」という、2つの業務実践型の学習者参加型ワークショップです。
「AI活用のワークショップでは、生成AIを使ってロープレのシナリオを作成したり、アンケートのフリーコメントを分析したりと、すぐに業務に活かせる具体的な活用法を体験してもらいました。ツール利用のワークショップでは、UMUやZoomの機能を駆使して、いかに学習者の参加を促し、双方向の研修を実現するかを、受講者として体感してもらいました」
これらのワークショップで重要なのは、参加したトレーナー自身が「これなら自分の研修にもすぐに取り入れられる」と感じられる、即実践可能なノウハウを多数提供することでした。
実際に参加したトレーナーからは「自身のプロンプトに対し、評価してもらえる点がすごくよかった」「自分の考え方が成長した」といった声が挙がっており、単なるスキル習得に留まらない、深い学びの機会となったことがうかがえます。
現場主導で進む、オンライン研修設計の刷新
―ワークショップでの気づきを、実際の「オンライン研修設計の刷新」にどのようにつなげていこうと考えていますか。
現在、同部門ではワークショップでの学びを元に、トレーナーが主体となって既存の研修プログラムの刷新を進めています。
「ワークショップのアンケートでは、『オンラインでは全体の意見を集約することが難しいと感じていたが、UMUの質問機能を使えば回答が視覚化され、理解度の促進につながる』『研修途中でアンケートを取り、受講生の理解度を確認しながら進めたい』といった具体的な改善案が多数挙がりました」と柏原さんはその効果を語ります。
これらの現場の声を元に、学習効果の最大化を目的とした、ツール活用を前提とする新しい研修設計に、部門全体で取り組んでいます。
「今後は、AIとの協働をさらに推進し、一人ひとりのパフォーマンスを最大化する学習環境を構築していきたいと考えています。今回の取り組みは、その大きな一歩となるはずです」と岩本さんは将来の展望を語りました。
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