研修担当の「任せる勇気」が、新人を『自律人材』に変える。アステラス製薬が起こす学習パラダイムシフト

先端・信頼の医薬で、世界の人々の健康に貢献するアステラス製薬株式会社。同社では事業環境の大きな変化に対応するため、新人MR(医薬情報担当者)の育成において、従来の「教える」研修から学習者が主体となる「自ら学ぶ」研修へと、そのデザインを大きく転換しました。

 

この前例のない挑戦の中心には、パフォーマンス向上を支援するAI活用学習プラットフォーム「UMU」の活用があります。なぜ同社は研修のあり方を根本から見直し、新人に大きな裁量を与える決断をしたのか。その背景と具体的な取り組み、成果について、FY24に日本コマーシャルにて新人研修をご担当された、日本コマーシャル カスタマーエクセレンス部 ケイパビリティズ ラーニング&ディベロップメントグループ 鈴木礼乃さんと中村純貴さんにお話を伺いました。

 

 

会社概要

 

社名:アステラス製薬株式会社

本社所在地:東京都中央区日本橋本町2-5-1

創業年月日:1923年(大正12年)

ホームページ:https://www.astellas.com/jp/ja/

 

背景:営業体制の大変革が生んだ、新たな新人育成の課題

―はじめに、今回の新人育成改革の背景にある事業環境の変化と、そこから生まれた課題意識についてお聞かせください。

 

「今回の取り組みの背景には、MRを取り巻く環境の大きな変化があります」と中村さんは語ります。同社ではMRの担当制が特定の地域を受け持つ「エリア担当制」から、より専門性を重視する「製品担当制(領域専門性)」へと移行。さらに全国のオフィスも原則廃止され、働き方はリモートワークが主体となりました。

 

この変化は、新人育成に深刻な課題を投げかけました。「オフィスがあれば、先輩との雑談や会議でのやり取りなどから、さまざまな情報が自動的に入ってくる環境がありました。しかし、その環境が失われてしまうことに強い危機感を覚えたのです」

 

意識的に情報を取りにいかなければ、新人の成長機会は失われてしまいます。それは本人にとって不幸なだけでなく、育成が十分でないことで顧客やその先の患者様へ価値を提供できなくなる、という組織全体のリスクにもつながります。

 

従来の指示を待つ「指示遂行型」の人材では、この新しい環境でパフォーマンスを発揮することは困難です。自ら課題を発見し、考え、行動する『自律人材』の育成が、企業の未来を左右する最重要課題となったのです。

 

コンセプト:“教える”から“自ら学ぶ”へ。『受講者自律型』ラーニングデザイン

―『自律人材』を育てるという明確な目的のもと、どのようなコンセプトで新しい研修を設計されたのでしょうか。

 

「『自ら行動する』レベルを上げるには、それを表現できる場と機会を研修で設けなければならない、という議論からコンセプトが生まれました」と、鈴木さんは振り返ります。研修で手厚く教え込み、現場に出てから「話が違う」というギャップを生むのではなく、いかに研修を現場に近いシチュエーションにできるかが重視されました。

 

そこで生まれたのが『受講者自律型』ラーニングデザインという新たなコンセプトです。その根底には「主体的に動くためには、タスクとしてやらされるのではなく、自らが『やりたい』と思えなければならない」という強い思想がありました。

 

「会社から『自律とはこうだ』と定義を押し付けるのではありません。本人たちに『自律』という言葉に魂を入れてもらう。そうして『自律ってこうだから、そうしたい』という内発的な動機付けを促すことが最大の狙いでした」と中村さんは続けます。

 

学習の主導権を学習者本人に委ね、会社はあくまで環境を整えるサポーターに徹する。この大きな方針転換が、変革の第一歩となりました。

 

コンセプトを形にした3つの仕掛け。UMUで実現する『受講者自律型』ラーニングデザイン

―『受講者自律型』というコンセプトを、UMUを活用してどのように具現化していったのか、具体的な取り組みについてお聞かせください。

 

取り組み①:『自律』の自分事化と成功体験

 

新人一人ひとりに「”自律”とは何か」を考えさせ、定義させました。そして、その定義に基づいたアクションプランを立て、実践し、その結果を発表・共有する。そして、UMUのオンラインコミュニティ機能「ラーニングサークル」を活用しながら、社内の上司・先輩を含めたさまざまな周囲のメンバーからフィードバックを得る、というサイクルをまわしたのです。

このプロセスを通じて、新人は「自律」を抽象的な概念ではなく、具体的な行動を伴う“自分事”として捉えるようになりました。会社から与えられた目標ではなく、自ら立てた計画を実践することで得られる小さな成功体験が、彼らの主体性を確かなものへと育てていきました。

 

取り組み②:新人全員が講師となる『教え合い』

 

知識習得のプロセスにおいても、新人に大きな裁量が与えられました。知識習得のゴール、期日を明確にしたうえで、必要な学習教材はUMUの学習コース機能を通じて提供され、与えられた時間のなかで「学ぶ手法・ゴールへの到達方法」は新人に委ねられます。すると、新人たちは自発的に学習に取り組み、個々での学習・チームで教えあう学習等、新人自身で考え取り組むことはもちろんのこと、時間配分や学習方法のアップデートを試み、日々軌道修正しながら学習を進めていく行動に繋がっていったそうです。

 

すると、新人たちは自発的にチームを組み、各々が担当範囲を決めて互いに“講師役”となって教え合う文化が自然に生まれたそうです。「単に教え合うだけでなく、お互いにクイズを作成したり、『どうすれば相手にもっと伝わりやすいか』を考えたりと、アウトプットの質を高め合う工夫が見られました」と、中村さんはその様子を語ります。

 

受け身で講義を聞くのではなく、他者に教えることを前提に学ぶ。この学習者主体の学びが、知識の深い定着を促しました。

 

取り組み③:多様なフィードバックの実現

 

学習効果を最大化するには、質の高いフィードバックが不可欠です。同社では新人一人ひとりに専用のラーニングサークルを設け、直属の上司や先輩MR、さらには本社の研修担当者など、多様な立場の社員が参加する仕組みを構築しました。

 

しかし、多忙な現場の社員を巻き込むことには困難も伴いました。「当初、私たちが『コメントしてください』と依頼するだけでは、なかなかうまくいきませんでした」と、鈴木さんは明かします。

 

そこで、研修担当者が動くのではなく、新人自身に「なぜフィードバックがもらえないのか」を考えさせ、行動を促しました。新人たちが自らの言葉でラーニングサークルの目的を伝え、「自分たちの成長のために協力してほしい」と働きかけた結果、現場の雰囲気は一変。「やらなくちゃ」という義務感から、「彼らを応援しなきゃ」という支援のマインドへと変わり、多角的で質の高いフィードバックが活性化したのです。

 

信じて任せた先に見えた確信。データと行動で証明された『自律学習』の効果

―学習の進め方を新人の裁量に委ねるという大胆な取り組みは、どのような成果につながったのでしょうか。

 

成果①:『自律人材』の育成

 

研修を終え、現場に配属された新人の行動には、明確な変化が現れていました。「今年の新人は自分でよく考えて活動しようとする姿勢が見られる」といったマネージャーからの定性的な高評価が、研修の成果を物語っています。

鈴木さんは具体的なエピソードを挙げます。「面談スキルを上げるために所属部署の部長に自らアポイントを取ってロールプレイングを依頼したり、製品知識を深めるために専門部署に自分から質問に行くなど、まさに私たちが目指していた自律的な行動が随所で見られました」

 

成果②:学習効果の維持・向上

 

「正直なところ、本当に求めるレベルに到達するのだろうか、という不安はありました」と、中村さんは当時の心境を吐露します。しかし、その不安はすぐに払拭されました。

 

従来に比べ、講師による一方的な講義時間を約50%削減し、新人の裁量時間を約44倍に増やしたにもかかわらず、MR認定試験の模試や社内試験の合格率は維持、もしくは向上したのです。

 

「この結果を見たときは、本当に嬉しかったですね。彼らを信じて任せてよかった、と心から思いました」と中村さん。鈴木さんも「ええ、データで成果が示されたときは、チーム皆で安堵しました。挑戦して本当によかったと感じた瞬間です」と頷きます。この定量的なデータは、「教え込む」時間を減らし、「自ら学ぶ」時間を増やすことこそが、学習効果を高めるという事実を明確に証明しました。

今後の展望:社内外に広がる可能性

―今回の成功を踏まえ、この『受講者自律型』の取り組みをどのように発展させていきたいとお考えですか。

 

「まずは、今回の取り組みの再現性を高めていくことが目標です」と、鈴木さんは語ります。「『自律とは何か』『どうなれば到達したといえるのか』といった指標や水準をより明確にし、新人の人数や個々の性格に依存しない、誰にとっても有効な仕組みへとアップデートしていきたいと考えています」

 

この挑戦は、単なる新人研修の成功事例にはとどまりません。自律を重んじる学習文化は、既存社員の能力開発や、リモートワークが主体の新しい働き方を支える組織文化の醸成にもつながる可能性を秘めています。

 

最後に、同じように自律的な人材育成に課題を抱える担当者へのメッセージをいただきました。「何よりも大切なのは、研修担当として『任せる勇気』を持てるかどうかです」と中村さん。鈴木さんも続けて、「『自由』と『任せる』は違います。新人に自己責任の中で裁量を与え、いつまでも『教えてあげる』関係ではなく、『一緒にやっていく』というマインドを持つこと。それができれば、人は必ず成長すると信じています」と語ってくれました。

 

アステラス製薬の先進的な取り組みは、変化の時代における人材育成の一つの答えを示しています。AI活用学習プラットフォームUMUは、これからもテクノロジーとラーニングサイエンスの力で、企業のパフォーマンス向上を支援していきます。

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