【イベントレポート詳細版】 AIが「価値構造」を組織に実装する。株式会社カクシン田尻氏が語る、経営と現場をAIでつなぐ「付加価値創造」の仕組み化
2025年9月30日に開催された「AI Transformation Summit 2025」のスポンサー講演に、株式会社カクシン代表取締役CEOの田尻 望氏が登壇しました。キーエンスでのコンサルティングエンジニアや国内外の販売促進の経験を持つ同氏は、「成果にコミットするコンサルティングファーム」を掲げ、多くの企業の高収益・高賃金実現を支援しています。
本セッションでは、「AI活用で、付加価値創造と人財育成はどう変わるか」と題し、AIが組織の「稼ぐ力」を根本から変革する具体的な「仕組み化」について、キーエンスの強さの秘密を紐解きながら解説しました。本レポートでは、当日のセッション内容を詳しくご紹介します。
1. なぜAIが必要か? 経営と現場の「価値の分断」
田尻氏はまず、キーエンスが競合ひしめく中で圧倒的な高収益(2024年度 営業利益率51.9%)を上げている事実を提示しました。その強さの源泉は、「付加価値戦略」と「差別化戦略」の徹底にあると分析します。
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しかし、多くの企業ではこの「戦略」が機能不全に陥っていると指摘します。「付加価値」や「差別化」という言葉が社内の会議で議論されているだけでは何の意味もありません。価値を感じる主体は常にお客様であり、「お客様が見るもの、聞くことが変わって初めて」、戦略は成功したと言えます。
多くの組織では、経営陣が描く「戦略」と、現場の営業担当者が顧客に話す「トーク」、顧客が見る「パンフレット」との間に深刻な「分断」が存在します。この「戦略から実行(トーク)までの綻び」こそが、企業の成長を阻害する根本原因です。
この課題に対し、田尻氏はAIトランスフォーメーションの本質を突く宣言をします。
「(これまでは戦略を現場に落とし込むのは)丸投げでよかったと思います。そんな時間はなかったからです。しかし、これからは経営レベル、人事人材戦略レベルから現場までが、AIによってつながります」
AIは、この経営と現場の深刻な「分断」を、一気通貫でつなぐためのソリューションとなるのです。
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2. AIが実装すべき「価値構造」のブループリント
AIが経営と現場をつなぐためには、AIが理解・実行できる「設計図(ブループリント)」が必要です。それが、田尻氏の提唱する「価値構造」です。これは、「特長 → 利点 → 価値 → 価格」という連鎖で構成されます。
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ステップ1:特長 (Feature) から 利点 (Benefit) へ
- 特長 (Feature):主語が「私たち」(自社)
例:「自動プレゼン資料出力機能があります」
- 利点 (Benefit):主語が「お客様」(相手)
例:「従業員様の時間が〇〇分削減できます」
「売れない人は特長ばかりを語る。売れる人は利点を語る」。この「主語の転換」は、単なる心構えではなく、AIがプログラムとして実行可能な「言語的な変換」です。
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ステップ2:利点 (Benefit) から 価値 (Value) へ
しかし、「〇〇分削減できる」(利点)というだけでは、提案としてまだ弱いのが実情です。これを強固な「価値」に変換するために、AIは「人軸・時間軸・利用シーン軸」といったコンテキスト(文脈)を付加する必要があります。
例えば、「自動プレゼン資料出力機能」(特長)は、単なる「資料作成時間が削減できる」(利点)ではありません。AIは、顧客の状況に合わせてこれを「価値」に変換します。
- A社(従業員200名)への価値:「御社の場合、年間2,000時間の削減、約600万円のコストダウンにつながる可能性があります」
- B社(従業員2,000名)への価値:「御社の場合、年間2万時間の削減、約6,000万円のコスト削減につながる機能になるかと思います」
田尻氏は、これこそが「商品理解」の本質であると述べます。単にスペック(特長)を覚えるのではなく、その特長が「誰の、どんな問題を解決し、どれほどの価値をもたらすか」を顧客ごとに理解すること。この複雑な変換作業こそ、AIが担うべき中核的な役割です。
3. AIが実現する高収益オペレーション
この「価値構造」をAIが実装することで、企業のオペレーションは根本から変わります。
① 価値のパーソナライズ化
田尻氏は、電気代削減の提案を例に挙げました。AIが顧客データを参照し、単なる「電気代が〇〇kwh下がる」(特長)という情報を、顧客A(10施設)には「5年間で1,825万円の削減になります。5分でご説明できます」という具体的な「価値」に瞬時にパーソナライズします。
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これまでトップセールスが経験と勘で行っていた、この「会う価値のある提案」の生成をAIが自動化することで、組織全体の営業品質が底上げされます。
② 付加価値ベースの価格決定
高収益を実現するには、創出した価値を価格に反映させねばなりません。田尻氏は、2,000万円の管理職研修の例を紹介しました。
- 特長 (Feature) ベースの提案:「月1回、半年の研修で2,000万円です」これでは価格の納得性はありません。
- 価値 (Value) ベースの提案:「この研修で御社の残業代が4億円減ります。そのための研修費用が2,000万円です」
AIは、顧客が「コスト(2,000万)」と「リターン(4億)」を比較できる提案ロジック(=付加価値ベースの価格決定)を自動構築します。これにより、単なる価格競争から脱却することが可能になります。
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③ 「相見積もり」の無力化
価格が文脈によって変わることは、ペットボトルの水がコンビニでは100円ですが、富士山頂で500円であることや、センサーもトイレ用は安価でありながら、工場自動化用は高価であることの例でも明らかです。顧客から「相見積もり」を要求される時点では、すでに「誰が、いつ、何のために使うか」という文脈が固定されており、価格競争しかできません。
AIの真価は、顧客の状況を先読みし、顧客自身が課題を定義する前に「こういう使い方をすれば、これだけの価値が出ます」という文脈自体をプロアクティブに提案することにあります。
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4. AI時代の新人財育成:「脳」としてのAIと「UI」としてのアバター
最後に田尻氏は、これらの変革を実行できる「人財育成」の未来像を示しました。成果を出すためには、「知る(気づき)」だけでなく、「分かって、行って、できて、教える」までの徹底したトレーニングプロセスが不可欠です。
AIは、このトレーニングプロセスそのものを仕組み化します。
1. 戦略・戦術・戦闘書の自動生成
経営の「戦略」を、AIが現場の「戦術」に翻訳し、さらには担当者一人ひとりが即座に使える「戦闘書」(パーソナライズされたトークスクリプトや提案資料)にまで一気通貫で自動生成します。これにより、経営と現場の「分断」は解消されます。
2. AIアバターによるロールプレイング
しかし、AIが作った「戦闘書」を読むだけでは、現場で実行できません。そこで、AIアバターが顧客役となり、営業担当者のトレーニング相手となります。営業担当者は「特長を利点に変換する」スキルや「価値と価格を比較させる」トークを、AIを相手に徹底的に練習し、習得することができます。
「自社ビジネスの価値構造の理解、これこそが人材育成。そして生成AIは脳としてのポテンシャル、AIアバターはユーザーインターフェースになっていきます。そうなっていくと、付加価値の創造の進化が訪れる」
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AIは単なる効率化ツールではない。企業の「価値創造」の戦略を定義し、それを組織の末端まで実装・教育する「仕組み」そのものになるのです。「これができた会社から勝ちます」と田尻氏は力強く語り、AIによる付加価値創造の進化がすでに始まっていることを示し、講演を締めくくりました。
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まずはコレから!
学びが変わる。組織が変わる。
生成AI時代に成果を生む、
UMUのAIラーニング戦略と事例を公開
UMU(ユーム)は、2014年にシリコンバレーで誕生し、現在では世界203の国と地域で100万社以上、日本では28,000社以上に導入されているグローバルAIソリューションカンパニーです。AIを活用したオンライン学習プラットフォーム「UMU」を核に、学術的な根拠に基づいた実践型AIリテラシー学習プログラム「UMU AILIT(エーアイリット)」、プロンプト不要であらゆる業務を効率化する「UMU AI Tools」などの提供により、AI時代の企業や組織における学習文化の醸成とパフォーマンス向上を支援しています。従業員が自律的に学び、AIリテラシーを習得・活用することで業務を効率化し、より創造的で戦略的な仕事に集中できる時間や機会を創出。これにより、企業の人的資本の最大活用と加速度的な成長に貢献します。