次期経営リーダー候補と業務役職候補の育成から始めた、一人ひとりに合わせた育成の取り組み
「豊かな社会の実現に貢献していく」という経営理念を実現するため、人材育成を行っているヤマト運輸株式会社。2021年にUMUを導入し、主にリーダー職候補者と業務役職候補者に対して、学習プログラムを提供しています。人材育成のビジョンや具体的な施策についてうかがいました。本記事は、2024年2月開催「Performance Learning Summit 2024」にてご講演頂いた内容を基に記事を作成しております。
講演登壇日:2024年2月21日(水)
講演タイトル:人材育成を通じた企業価値向上への挑戦 〜社員18万人のパフォーマンス最大化を目指して〜
登壇者:ヤマト運輸株式会社 人事部 配置・育成・人事課 課長 鶴田裕亮 氏
ヤマト運輸株式会社 人事部 配置・育成・人事課 スーパーバイザー 坂本一平 氏
企業情報
社名:ヤマト運輸株式会社
本社所在地 :東京都中央区銀座2-16-10
資本金:500億円
設立年月日:2005年(平成17年)3月31日(創立:1919年11月29日)
ホームページ:https://www.kuronekoyamato.co.jp/ytc/corp/
企業理念と経営の方向性に沿った、「イノベーションを起点」とした「新たな物流」「新たな価値」創造
ヤマト運輸株式会社は創立100年を超える歴史がある企業で、社員数は約18万人です。2021年にグループ会社の経営資源を統合してから3年が経ち、2024年4月から新たな中長期計画が始まります。現在、経営に資する人事施策、人事戦略の展開が課題となっています。
経営理念「豊かな社会の実現に貢献していく」が当社の価値であり、果たすべき使命だと捉えています。当社には「ヤマトは我なり」「運送行為は委託者の意思の延長と知るべし」「思想を堅実に礼節を重んずべし」という3つの社訓があります。この考え方が社員一人ひとりに土台として根付いています。社訓という土台があり、1番上にある経営理念を達成するために、中長期計画を策定、遂行しています。
中長期的なビジョンとしての「人材マネジメント方針」
VUCAの時代になり、取り巻く事業課題や社会課題も非常に大きく変わってきています。物流では、EC化の進展、労働人口の減少、少子高齢化、過疎化のほか、2030年には輸送力不足が深刻化してくるなどの事業課題もあります。そのようななかでも、私たちは「持続可能な未来の実現に貢献する価値創造企業であるべきだ」と考えています。
中期経営計画は、これまでは3年ごとに立てていました。遠い未来まで描く必要があるだろうと、2024年度から2030年度まで計画を描いています。次期中長期経営計画のビジョンにおいても、創業時から変わらない理念「運ぶを通じて豊かな社会の実現に貢献する」に基づき、不確実性が高まった時代も、「持続可能な未来の実現に貢献する企業価値創造」を目指していきます。
今までは物流領域の中でも宅急便の領域を基盤として事業を展開していましたが、今後は、新規事業の領域、成長事業の領域を新たに定めた上で、お客様に対し、さらに大きな価値を提供したいと考えています。当然ながら、事業ポートフォリオの変化に伴い、人材ポートフォリオも変化しているため、今までどおり、基盤領域を主軸とした人材を育成するだけでは、我々が目指す世界を実現することは難しいと捉えています。変革期を迎えている当社において、人事の領域も大きく変化することが求められており、このタイミングだからこそ、我々人事パーソンとして立ち返るべき軸を定める必要があると認識し、2023年7月に「人材マネジメント方針」を制定しました。ヤマトグループの人事領域で働く社員の羅針盤として位置づけ、目指す世界観を統一したうえで、人事領域各職務を遂行しています。
しかしながら、人材マネジメント方針を基点に、経営戦略と連動した人事戦略の推進は、まだ道半ばです。企業として持続的に成長するためには、事業を支える人材が最も重要です。特に、当社は労働集約型のため、18万人いる社員のパフォーマンスをいかに高めていくかが大きな課題の一つと認識しています。
社員のパフォーマンス向上を図るために、まずは公正な評価とフィードバックを通じて社員の貢献や成長を称える仕組みを構築することを優先的に着手し、結果として社員一人ひとりが働きがいを実感できる職場風土を目指していきます。また、たゆまぬ挑戦、努力を続ける社員に対しては、仕事を通じた成長の機会を提供することが必要であると捉えており、採用、配属、育成、評価、代謝、各施策における人材マネジメントサイクルを連結、循環することを目指しています。モチベーション高く、パフォーマンスを発揮する社員をいかに育成するか、その機会をどのように提供し、仕組みをどのように作っていくのか、当社の育成施策を紹介します。
「適所適材の配置」を目指した、人材育成視点の課題と施策推進の方向性
人材マネジメントの方針において、特に重きを置いているのが「適所適材の配置」です。
今までは人に業務がついていて、人がいるから組織が作られる状況でした。属人化を見直すために、経営戦略を実現するための重要な事業は何か、その事業を戦略的に達成していくために、どのようなポジションと人材が必要なのかを定義しようと考えています。そのうえで、適正な人材をアサインするために、これから定義の精度を高めていくところです。
まず取り組むべきことは、社員一人ひとりのキャリア志向や経験、身に付けているスキルや知識を把握することです。それに合わせて、一人ひとりに適した育成を展開していくべきだと考えています。将来的には全社員を対象に行っていきたいと考えていますが、人数が多く、変えていくハードルがたくさんあります。小さなところから変革の波を生み出すために、まずは組織上のキーポジションとなる階層にスコープを定め、推進しています。
サクセッションプランと連動させた、次期経営リーダー候補者と業務役職候補者の教育
次期経営リーダー候補者と業務役職候補者を見つけるために、サクセッションプランを実施しています。そのために、次期経営リーダー候補の選抜、候補者モニタリング、育成機会の付与を、体系的に実施できる仕組みへと変化させました。
次世代リーダー育成には、以下3つの視点が必要だと考えています。
- 1つ目は、次世代の経営リーダー候補を選抜すること
- 2つ目は、候補者をしっかりとモニタリングをしていくこと
- 3つ目は、個別に育成の機会を付与していくこと
大事なことは、サクセッションプランのピラミッドのように、すべての階層が繋がりを持って実施できる仕組みへと進化させることです。特に経営職候補者と業務役職候補者の階層について、キーポジションとして最初に進めてきました。
キーポジションの1つ目は、経営職候補者の教育です。これからのヤマト運輸を担う経営リーダーを育成する施策です。「経営職」は課長以上の階層を指しています。この層に対して、UMUの「アセスメント機能」を利用して、組織として再現性の高い自学自習促進のためのデータ分析を実施しました。
キーポジションの2つ目は、業務役職候補者の研修です。これは上位ポジション配置人材の選抜型の研修という特性を持ち、係長以上を指します。この階層に対しては、UMUの「AIエクササイズ」や「OJT機能」などを利用して、直属の上司が育成責任を持って、対象者が孤立しない仕組みを作っています。
アセスメント機能を活用した、経営役職候補者教育の取り組みと結果
具体的に、UMUのどのような機能を活用しているのか、施策を紹介します。
これまでも学びの環境は随時提供してきましたが、自学自習ができるeラーニングコンテンツは全員一律に配信するのみに留まっていました。つまり、興味あるコンテンツだけを見に行く環境となっていたのです。今期の取り組みとして、全員一律のコンテンツ提供ではなく、個別特性や成長課題に合わせた質の高い育成機会を付与することにしました。さらに、その取り組みのモニタリングを行い、個々のアセスメントを実施することで、適所適材の配置に繋げています。
経営職候補者の教育は、UMUで取得した個別アセスメントを基に展開しています。主に個人の成長過程を見える化することに重きを置きました。課題を自身でしっかり把握をしたうえで、各々が学習に取り組むことができるようになりました。
アセスメントのキーとなるポイントは大きく3つあります。
1つ目は、アセスメント項目をしっかり設定したことです。項目は社内の多面観察で使用しているコンピテンシーから抜粋して作成しました。
2つ目は、スキル変化を可視化したことです。複数回のアセスメントを実施し、個人ごとに可視化しました。下記画像画面右側の個人チャートがアセスメントを可視化したものです。
3つ目は、コンテンツを最適化したことです。アセスメントの結果をもとに自己理解を深めるために、個人に合わせた推奨コンテンツを配信しました。全員一律の支援ではなくて、個人単位で支援することができました。
経営役職候補者教育の取り組みについて特筆すべき点は2つです。1つはUMUを活用した育成プログラムを実現することで、個別特性や成長課題に合わせて支援できたこと。もう1つはモニタリングおよびアセスメントの結果を基に、経営リーダーの選抜と適所適材の配置を実現できたことです。
「AIエクササイズ」を活用し、リーダーの選抜と適所適材の配置を実現
従来、業務役職者候補者の教育は、年度別に募集をかけて一律集合型の研修を実施していました。そのため、適切な時間での知識付与や、適切なタイミングでの参加が難しい状況が生まれていました。また、時間の経過とともに研修内容が忘れられてしまうことも多々ありました。そこで、2021年からは、UMUを活用して、時間や場所の制約を受けない取り組みに変更。オンライン学習環境を活かして単位を取得していく取り組みを行いました。また、上司からのフォローも個人の成長には欠かせません。受講生の取り組みに対して、リアルタイムで上司がUMU上でフィードバックできる仕組みも整えました。
実際の業務役職候補者の教育内容がこのUMU学習プログラムの内容です。以下3つで構成されています。
1つ目は、各種インプットです。動画とテストで、管理者としての知識を徹底的にインプットするコンテンツです。全部で39コース、約247セッションと、非常に大きなボリュームです。ただインプットするだけではなく、知識の定着化のために、必ず動画コンテンツ視聴後に小テストを実施しています。インプットとアウトプットを組み合わせることで、より深く知識を定着させる仕組みを構築しました。
2つ目は、ケーススタディです。例えばイレギュラーの場面を動画で訓練させる仕組み作りなどをしてきました。なかでも、「AIエクササイズ」は画期的な機能です。受講者がUMU上で設定されたケーススタディを実践します。その流れのなかで、AIは6つの項目に対する評価を自動で行うのです。評価項目は、明瞭さ、言葉のスピード、流暢さ、アイコンタクト、表情、ジェスチャーの6つです。
業務役職者として適切な立ち振る舞いができているかを判定する機能として活用しています。さらにその先に、「OJT機能」を準備しています。これは、アップした動画を上長が確認し、フィードバックするものです。上司からのフォローを、ここで取り入れています。
3つ目は、評価面談です。UMUで収集したデータを基に、対面による評価面談を実施します。
上記の学習プログラムに取り組むうえで、2つの重要なポイントがあります。
1つは、配置前の必要知識の付与と、上司の育成支援を支える仕組みを構築していることです。もう1つは、モニタリングとアセスメントの結果を基に、リーダーの選抜と適所適材の配置を実現していることです。
人材育成を通じて、持続可能な未来の実現を目指す
当社の経営理念は「豊かな社会の実現に貢献する」であり、「持続可能な未来の実現に貢献する価値創造企業」を目指しています。これらを実現をしていくための第一歩として、キーポジションとなる組織を担うリーダーの育成から変革を引き続き進めていきます。人事が抱える課題は数多くありますが、「人材マネジメント方針」実現のため、これからも革新的な人材育成施策を展開していきたいと思います。
講演に対する質疑応答
ー何名体制でUMUのコースを作られていますか?
全体的な企画は4人、UMUと連携したコンテンツ作成やプラットフォームのデザインは3人で行っています。役割分担をしながら、チームの中で運用しています。
ーコンピテンシーはどのように作られてきましたか?
ヤマトバリュー(ヤマトにおける価値)で定義づけられています。外部の専門家の知見も借りながら、社訓を体現するうえで何が大事なのか、行動指針など現場の意見をもとに作成しました。
ーアセスメントを行うなかで、見えてきた傾向値はありますか?
本社で働く社員は企画力や構想力に強みを持っています。一方、現場の社員は、マネジメント能力やリーダーシップが強いという傾向が見えています。
今までは標準的なキャリアパスを作ってきませんでした。しかし、今後は、現場でマネジメントを経験して、本社で企画力を学ぶような流れをつくると専門性を磨けるのではないかと考えています。
ー業務役職者育成において、具体的にどのようにUMUのデータを活用していますか?
テーマを8つ作りました。例えば、「部下が、有給がないのに休みたいと申請したときに何と答えますか」などです。法令違反があると本人に罰則がありますので、動画で合格しないと進めない仕組みにしています。上司と本人の評価面談だけでなく、個別面談も行いコミュニケーションをとりやすくしています。
ー上司の育成支援を進めるなかで、テクノロジー活用について抵抗はありませんでしたか?
ヤマトの風土もあると思いますが、上司からの抵抗はありませんでした。テクノロジーと育成を融合していく必要性の認識をすでに持っていたのです。地方の現場に足を運ぶのが難しいという環境があるからこそ、遠隔で行えるテクノロジーが受け入れられていると思います。
ーUMU導入した際の現場の声を教えてください。
「自分の携帯で、自分の時間にやることが難しかった」との意見がありました。一方、「少しずつ自分の興味分野に取り組むことで、ためになった」「競合と比較して遜色ない学習環境を用意してくれた」など、UMU導入に好意的な意見もありました。UMU導入に好意的な意見をもらったときは嬉しかったです。今までは社内システムを通さないと学習ができなかったので、その制限のイメージがあったのだと思います。UMUになって解消されました。
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